せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

19. 求婚

(僕のせいで! 僕のせいで、セシルが可哀想な目に遭っていただなんて‼︎)

 怒りに任せて、地面を踏みつけるようにして歩いた。
 怒りの矛先は、セシルに酷いことをした児童たちではなく無論、己れである。
 ハンスはずっと思い違いをしていたのだ。

 ジェシカのことは、苦労していると認識していた。
 低賃金で働いているのだから、当然生活は苦しいのだろう。
 昔と比べるとずいぶん痩せてしまっている。
 ひとり親の苦労もあるだろう。

 一方セシルについては、認識が甘かったと言わざるをえない。
 まだ子ども故に世の中のことをよく知らないし、ジェシカがひとりで苦労を背負い込んでいる分、しあわせなのだ思っていた。
 しかし、それは大きく間違っていたのである。

(今まで気がつかなかったなんて、僕はなんて馬鹿なんだ!)

 言い訳にしかならないが、ハンスは魔法学校入学前に親元から離されたことが心の傷になっていた。
 それで目が曇ってしまい、セシルのことを正しく見ることができていなかった。

 セシルは片親だけとはいえ、一緒に暮らせていて、しかもそれがジェシカなのだ。
 浅ましいかもしれないが、セシルは生まれてこの方ジェシカの愛情を独り占めしてきたのかと思うと、羨ましいとすら思っていた。

 しかし、セシルは羨ましがられるような立場ではなかったのだ。
 現に、外で盾になってくれる存在がいないではないか。

 ハンスもセシルと同じように、学業において抜きん出てていた。
 しかし、ハンスはイジメどころか嫌がらせのひとつも受けた経験はない。
 その理由は明白だ。
 祖父が学校長だったから。
 祖父が何かしてくれたわけではないだろうが、ずっと間接的に守られていたのだ。
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