せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
「ハンス先生?」
「入ってもいいかい?」
「はい」
驚くほど狭い部屋だった。
ハンスがカレッジ時代に住んでいた学生寮のひとり部屋よりも狭い。
そして、物が極端に少ない。
シングルベッドひとつに、ふたりで使うにはとても十分とは思えない小さなテーブル。
壁に水平につけられた短い板の上には、セシルの勉強用具があるだけ。
小さなチェストしか見当たらないが、そこにふたり分の衣類が納まってしまうのだろうか。
そうに違いない。
毎週末会っているが、同じ服ばかり着ている。
探偵にも調査を依頼し、ふたりの生活水準は分かっているつもりだった。
しかし、実際には何も分かっていなかった。
こうして目の当たりにして、想像力が全然足りていなかった事実を突きつけられた。
(早急に何とかしてやるべきだった!)
「先生は、ママに今日のことを話しに来たんですか?」
セシルは恐る恐る訊ねてきた。
「違うよ。未来の話をしに来たんだ」
ハンスはセシルに微笑みかける。
けれど、セシルには何のことか分かるはずもなく、きょとんとする。
「未来?」
「ママはじきに帰ってくるから、そうしたら話そう」
「どうして分かるんですか?」
「どうしてだろうね……」
答えになっていない返事をしたとき、ドアが勢いよく開いた。
「セシル‼︎」
ジェシカが飛び込んできた。
「あら? ハンス?」