せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ジェシカとセシルには荷解きしてもらうことにして、その間に夕食を準備に取りかかる。
今しがた買ってきた野菜と木の子、それから鶏肉を使って、シチューを作ることに決めた。
ウォルコット家の普段の夕食時間が何時かは知らないが、今日はそれよりも遅くなってしまうだろう。
なら、お腹に負担がかからないメニューがいいと考えたのだ。
特にまだ子どものセシルにとっては、今日は色々とあり過ぎた。
今夜はぐっすり眠ってほしい。
(そのためにも消化にいいものを)
ハンスは、手際よく切った材料と調味料をまとめて鍋の中に放り込み、火にかける。
そうしておもむろに呪文を唱える。
すると、鍋の蓋がきっちりと閉まり、内部に圧力がかかった。
これにより短時間でも火が通るし、美味しく出来上がるのだ。
煮込んでいる間にパンをスライスし、テーブルの上に皿とスプーンを並べる。
週末とは違って、シンプルな夕食。
もてなして懐柔するためではなく、空腹を満たし必要な栄養を摂取することが目的の食事だ。
この日常感が、ハンスにとっては逆に特別なものに感じられる。
(でも、これが特別でなくなるのも、きっとじきなんだろうな)
その日が待ち遠しい。
ひと通りの準備が整ったところでジェシカとセシルの様子を見に行くと、ひとつのベッドにふたり仲よく寝転んでいた。
荷解きはとうに終わっているようだ。
たいした量はなく、荷作りも早かったのだから当然だ。
(うれしくてニヤけてしまうな)
ハンスはしばしその光景を堪能してから声をかけた。
「お待たせ。食事の用意ができたよ」
「ありがとう」
「僕、お腹がぺこぺこです!」