せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 セシルは食事中も大興奮だった。
 思えば、ハンスがジェシカに求婚してからずっとこのテンションだ。

(この調子だと、今夜はなかなか寝つけないかもしれないな。明日も学校だが、大丈夫だろうか……)

 しかし、それは杞憂だった。
 お腹がいっぱいになると、セシルは大きくあくびをした。
 それも、立て続けに3回も。

「今日はもう限界みたい。寝かしつけしてくるわ」
「うん、片付けはやっておくから、そうしてあげて。セシルくん、今日はゆっくり休んで」
「はい、おやすみなさい」

 眠気まなこでも、律儀にペコリと挨拶をしていった。

 音を立てないように注意を払いながら食器を洗っていると、ジェシカがダイニング・ルームに戻ってきた。

「あれ? もしかして、セシルくんはもう入眠したのかい?」
「ええ、横になって目を閉じたら、ものの数秒で寝息を立て始めたわ」

 ジェシカがクスッと笑う。

「君も疲れただろう? 座ってて」

 皿洗いを後回しにして、カモミール・ティーを淹れる。
 セシルだけではない。
 ジェシカのこともバタバタさせた自覚があった。
 せめてものお詫びのつもりだ。

 ジェシカは椅子に腰掛け、一拍置いてからハンスに訊ねた。

「ねえ、訊いてもいい?」

 ハンスは空気が変わったのを感じた。
 いよいよ来た、と思った。

「もちろん。なんでも答えるよ」

 ロザリアのことを説明する心の準備はできていた。
 だいたい、過去の狡い自分をジェシカに隠したままで、全てうまくやろうという考えがいけなかったのだ。
 二重で狡かった。

(今さらだけど、せめてもの誠意をもちたい)

「あなたが『セシルの父親になりたい』と言ったことと、セシルが最近元気なかったことは関係してる?」
「あー……」

 そっちの話題が来るとは予想だにしていなかったハンスは狼狽えた。
 それについては、心の準備はこれっぽっちもできていなかった。

(誠意をもちたいとは思うけれど、この場合は誰に対してが正解なんだ? ジェシカか? それとも、セシル?)

 言葉に詰まる。
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