せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
そして、それはジェシカに肯定として伝わった。
「やっぱり……」
全て分かっていたのだ。
それによって、ハンスもまた分かってしまった。
ジェシカが未婚の母であるせいで、これまでにもジェシカやセシルは理不尽な目に遭ってきたのだ。
(だから、すんなり僕の提案に応じてくれたのか)
腑に落ちた。
「私、セシルを産むって決めたときからずっと虚勢をはってきたの。でも、常に不安だった。先は見通せないし、私ひとりでは限界もあったし。ハンス、あなたからの求婚は率直にうれしかったわ」
「本当かい?」
「ええ」
よろこびが溢れる。
理由がセシルであってもいい。
自分と添い遂げると決めてくれるなら。
(僕がジェシカを愛せばいい。しあわせにしよう)
ジェシカを抱きしめようと、腕を広げ、ジェシカに近寄る。
が、両手で胸を押し返されてしまった。
ジェシカは顔を上げ、ハンスの目をまっすぐに見据える。
「だけど、ロザリアさんのことがどうしても気にかかるの」
「そうだね。当然だ。彼女のことを何も説明したことがないんだから」
ハンスはジェシカの隣に座る。
「少し長くなるけど、聞いてほしい」
「構わないわ。だから聞かせて」
(ジェシカは僕の話を聞いて、どう思うだろうか。呆れる? 幻滅する?)
セシルの父親として直ちに行動すると決めた瞬間から、ジェシカには包み隠さず話すと腹に決めていた。
狡かった自分も、浅はかだった自分も全て。
そのはずが、緊張して妙に喉が渇く。
ハンスはカモミール・ティーを口に含んでから静かに話し始めた──