せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

21. 婚約者

 ロザリア・ウィザースプーン──
 ジェシカとハンスにとっては、ヨルデン州魔法学校の同期生である。

 普通科に所属していたから、学校内で接点があったのはハンスよりもむしろジェシカのほうかもしれない。

「でも、何度か同じクラスになったことがある、という程度よ。彼女は人気者だったから、いつも誰かしらに囲まれてたわ。だから、私みたいな目立たない生徒は、用事でもなければ話しかけることはできなかったわ」
「想像できる気がするな」

 ロザリアは学年を超え、学校中で有名人だった。
 おそらくハンス・スティルロッドと同じくらいに。
 なぜなら、ロザリアの父親はヨルデン州知事であり、さらに州内にいくつも工場をもっていたから。

 彼女の取り巻きになりたがる生徒は大勢いた。
 気位が高かったから、付き合う友人はその中から選んでいた。
 常に上にいたい。
 そういう人なのだ。

 ジェシカはその性格から考えるに、おそらくロザリアのことを特別視しなかったのではないか。
 それでは、彼女から友人になる権利を与えてもらえるはずがない。

 それと、あえて訂正しようとは思わないが、ジェシカはひとつ勘違いをしている。
 自分のことを『目立たない』と評したが、それは正しくない。
 『可愛い』と、特に男子生徒の間で言われていた。
 選抜科にも狙っている男子がいたほどだ。

 ロザリアにとっては、面白くなかったに違いない。
 彼女こそ正統派な美人であることは確かで、それ故に男子という男子が自分に思いを寄せて当然だと考えていた節がある。
 ジェシカに話しかけることなどしたくなかったし、実際しなかったのだろう。

「本当のことを言うと、私はロザリアさんとは無理に親しくなろうとしないほうがいいだろうな、と思ってたわ。実は私の父は、ロザリアさんのお父様が経営する工場で働いてたの。デッキブラシやハンドブラシなんかを作ってた。たぶん今もそうだと思うんだけど」

(それはマズイかもしれない……)

「だから、そういう下心があると邪推されないようにしたくて」
「……そうなんだ」

(いや、そんな同級生はいくらでもいるし、ロザリアはいちいち知りもしないだろう)
< 117 / 161 >

この作品をシェア

pagetop