せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
中等部に上がる少し前、またロザリアの父親はやってきた。
その日の相談は、これまでとは全く毛色の異なる内容だった。
──ハンスくんとロザリアを婚約させたい。といっても、なにぶんまだ子ども同士なのだから、将来どうなるかは分からないがね。
なら大人になってから婚約すればいいのに、今婚約する意味がさっぱり分からない、と思った。
さすがにこの件については、祖父が判断するわけにはいかなかった。
一旦話を預かる形にして、ハンスの両親に説明がされた。
ハンスは両親の反応に期待した。
意味がないと思っていた婚約に、はじめて意味が生まれた。
知事の娘との縁談をよろこぶのか、まだ12歳の子ども相手に早急だと憤慨するのか。
しかし、どちらでもなかった。
──ハンスの人生なのだから、本人に決めさせてやってほしい。
もう一度捨てられた気がした。
息子がどうなろうと、興味がないのだ。
祖父は、ハンスに決めさせるに当たって、ロザリアと結婚することのメリットを正しく理解させようとした。
これから先もヨルデン州で暮らしていくつもりがあるなら、ウィザースプーン家は力になってくれるはずだというようなことを、子どもにも分かる言葉でこんこんと説かれた。
祖父はよろこんでこそいなかったが、とても真剣だった。
その熱量は、子ども心に驚きを感じるほどの凄まじさで、この話を受けることによるメリットの大きさが伝わってきた。
そして、言にはしないまでも、祖父がこの婚約を望んでいることまでも。