せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 では、逆に断った場合はどうなるのか。
 祖父はそっちについては説明しなかったから、子どもの頭で考えた。
 ヨルデン州にはいられなくなるんじゃないか、と。
 それは構わなかった。
 自分のことはいい。
 だが、祖父の立場まで危うくなるのはマズいと思った。

 ハンスには、殊の外、両親の薄い反応が効いていた。
 祖父母からも見捨てられてしまいそうな選択はできなかった。
 それと、どうせ子ども同士の婚約であり将来はどうなるか分からないのだから、と高をくくっていた部分も多分にある。
 ロザリアとの婚約に対しては、何の現実感ももっていなかった。

 だから、承諾した。
 ただし、条件を付きで。

──僕たちが魔法学校を卒業するまでは、婚約の件は伏せておいてください。

「だから私はふたりのことを知らなかったのね」
「うん。隠してたんだ」

 同じ学校の同じ学年、それももうすぐ同じ選抜科に入ってくるであろう女生徒と婚約している、というのは、いかにも面倒だと思ったのだ。
 幸いにも、ロザリアの父親もハンスの祖父も、それには賛成してくれた。

 しかし、顔合わせの食事会で、ロザリアだけはそれに異を唱えた。

──後ろめたいことでもないのに、どうして? 私は友達に隠し事なんてしたくないわ。

 もっともらしく、そう主張した。
 その発言で気づいた。

(僕との婚約は、父親ではなくロザリア自身が言い出したんだな)
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