せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 しかし、ハンスの計画は全く違うものだった。

 両親の暮らす家からカレッジに通うのは構わないが、できることなら寮に入りたいと思った。
 なまじ近くにいると、ムダなことだと分かっていても、つい両親に期待したくなってしまうのではないか。
 ならば、いっそ距離を取りたい。

 カレッジ卒業後は、自分の力で就職するのだ。
 ヨルデン州以外で。

(そうして祖父が退職するのを待ち、その後で婚約解消を申し出ればいい)
 
 我ながら腹黒い計画だと思った。
 それでもいい。
 自由になれるなら。

 ジェシカからは、『将来の夢はヨルデン州立魔法学校の教師』だと聞いていた。
 ジェシカは生涯ヨルデンを出ることはないのだろう。

(だから、この恋は叶わない)

 そう思っていた。
 想いを伝えるつもりはなかった。
 そもそも婚約者がいる身で、そんな資格もなかったのだけれど。

「それなのに、ジェシカがあんな顔をするから」
「えっ、私のせいなの?」
「卒業式の前日にあんな泣きそうな顔をされたら、君も僕のことを好きだったのかと思って、」
「ハンス! あのときは、あなたのほうがよっぽど泣きそうだったわよ⁉︎」

(そうだったかもしれない)

 婚約を解消するまでは、知事とロザリアの機嫌を損ねない程度に係りを保ち、無事に解消できたあとはヨルデンとの縁を完全に断ち切る心づもりだった。
 ジェシカの存在も含めて。

 ジェシカはこれからもヨルデンで生きていくのだから、下手に関わって迷惑をかけることになってはいけないと思ったのだ。
 こればかりは仕方がない、魔法学校時代限りの恋だ、と割り切ったつもりでいた。
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