せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 迎えた卒業式の日。
 どうにかジェシカを捕まえて、ふたりだけで話をしようと思った。
 翌日にはヨルデンを発ち、首都フィラストンに向かう予定だったからだ。
 切符を買ったときには少しでも早くヨルデンを出い
たい一心で、そんな日程にしてしまっていた。

 卒業式が滞りなく終わるとすぐにパーティーが始まった。
 ジェシカの居場所は把握しているのに、学友たちに囲まれてしまって身動きが取れない状況に陥った。
 どうにももどかしかった。

 そんな中、女子の一部がひそひそと話をしながら、意味ありげにハンスのことを横目で見始めた。

──えっ、何なに?

 徐々に人が集まり、大きな集団になっていく。

──ホントに⁉︎
──ホント、ホント。私見たの。

 声の大きさも徐々に遠慮がなくなっていった。

──楽しそうだけど、どうしたの?

 ついにロザリアまでがそこに加わった。
 胸騒ぎがした。

──それがね、

 実に楽しそうに、ハンスとジェシカを交互に見比べた。

(マズい‼︎)

 瞬時に悟った。

(見られてたんだ)

──手を繋いで、正門のほうに走っていったの!

 ロザリアがハンスのほうに視線を向けた。
 鬼の形相で。

 しかし、次の瞬間、優雅ににっこりと笑ってみせた。
 いかにも良家の子女といった品格で。
 ハンスははじめてロザリアに恐怖を抱いた。

 ロザリアは、会場である講堂全体に聞こえるほど声を張った。

──何か事情があったんでしょう。やましいことはないはずよ。だって、私とハンスは婚約してるもの。

 ジェシカと目が遭った。

──ね、ハンス?
──あ、ああ。

 ロザリアに問いかけられ、思わずジェシカから目をそらしてしまった。

(しまった‼︎)

 もう取り返しがつかないと思った。

 講堂内がどっと沸いたが、自分とはまるで無関係のことのようだった。

(ジェシカ!)

 もう後ろ姿しか見ることは叶わなかった。
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