せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「あのときは比喩なんかじゃなくて、目の前が真っ暗になったわ。あなたと目が遭ったと同時に、ロザリアさんの発言は真実なんだって分かったわ」
「ズルかったんだ。ロザリアとの婚約を隠したまま、いつか君と、とまで考えてた」
「私はあのとき、ロザリアさんに私とのことを誤魔化したくて狼狽えてるんだと思ったわ。前日あなたと心が通じ合ったと思ってたのは勘違いで、私は単なる浮気相手か何かだったんだって」
「誓って違う」
「そうだったみたいね。ようやく知れた」
「謝って済むことじゃないけど、本当にごめん」

 ロザリアとの婚約を続けた状態で、そのことをジェシカに打ち明けることもせず、思いを遂げてしまった。
 その結果、最悪の形で知られることになり、ジェシカを酷く傷つけてしまった。

「だから、君は僕に知らせずに、シングル・マザーになることを選んだんだね」
「選んだ……は少し違うかな。魔法学校卒業したあとは、せっかく第一志望のカレッジに入学したっていうのに、講義中にやたら眠くて、おかしいな、おかしいなと思ってた。しばらくして、月のものがずっと来てないことに気づいたわ」

 自分の知らないジェシカ側の物語。
 ハンスは耳を傾けた。

「戸惑ったし、不安しかなかった。でも、産むことしか考えてなかった。どうすれば産める? って、本当にそれだけ。何も選んでないわ。その結果がシングル・マザーだっただけよ」

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