せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

23. 長い夜

「僕に知らせようとは本当に少しも考えなかった?」
「それは、浮気相手の妊娠なんて歓迎されないと思ったから」
「そう思わせる原因を作った僕がどう考えても全面的に悪いな。でも、だからって、ひとりでノーステリア州に来て産むなんて……」

 ジェシカは苦笑いする。

「あの状況で唯一頼れそうだと思った両親から、諦めるように言われてしまったから。それで、以前から『福祉が手厚い』と聞いてたノーステリアなら何とかなるかと思ったの」
「君のご両親は、君の妊娠を知ってた⁉︎」
「打ち明けるのは怖かったけど、最初に頼ったわ」

 それは、探偵の調査書に書かれることはない内容だった。
 てっきり、妊娠を誰にも相談できなくて、秘密裏に産むために親類縁者のいないノーステリアにやってきたものと思っていた。
 魔法学校を卒業してから半年も経っていなくて、まだ10代だったジェシカ。
 勇気を振り絞って頼った両親から中絶を迫られて、どれほど絶望したことだろうか。

「しかし……とんでもない行動力だな」

 驚嘆するしかない。

「どうにかセシルを産む方法だけを考えてたから」
「お腹にいたセシルを守るために奮闘してたんだね」

 ジェシカが『ふふっ』と笑う。
 愛おしさが募る。

 だがその一方で、その行動力があったなら、自分のいるフィラストンに来てほしかったとも思ってしまう。
 浮気相手にされたと勘違いしていたのなら、そのことを詰りにでも何でもよかったから。

(ジェシカは追い込まれても、ひとりでどんどん動いてしまうんだな。これからも気をつけてないと、僕なんて置いていかれそうだ……)

「でも、僕は僕で絶望してたんだよ」
「絶望?」
「だって、最後に見たのは君の背中だ。言い訳も弁解もできずに、ヨルデンを出ないといけなくて。カレッジでの最初の半年間は正直なところ、気が気じゃなかったよ。ようやく前期が終わったあとの長期休暇で、君に会いにヨルデンにすっ飛んでみれば、」
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