せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 ハンスは肩をすくめて、お手上げのポーズをしてみせる。

「私はすでにノーステリアの保護施設にいた頃だわ」
「そうだよ。君の友人は皆、口を揃えて『蒸発してしまって、誰も行方を知らない』って言うものだから、絶望するしかないじゃないか。カレッジには自ら退学届を提出したんだって?」
「ええ。カレッジに戻れる可能性はないと思ったから。それなのに、もし両親が授業料を払い続けてくれでもしたら申し訳ないと思ったの」
「なるほど。あれほど教師になりたがってた君がカレッジを辞めるなんて、よほどのことだと思ったし、君の身に何が起きたのかと心配したよ」

 しかし、ジェシカにそこまでさせたのは自分だ。
 二兎追うものは一兎も得ずと言うではないか。
 にも拘らず、祖父の立場と自分の恋と。
 両方得ようとした。
 それも、ジェシカに隠したままで。

(婚約の事情を全て明かして、その上で『好き』だと言葉にするべきだった。卑怯な人間のくせに、それを隠して、清廉潔白に見せかけようとしたのがいけなかった)

 その代償を払ったのはハンスではなく、ジェシカだった。
 これまでの彼女の苦労を思うと、後悔が募る。

(もう二度とジェシカにツラい思いはさせない)

 そういえば、ジェシカの行方を訊ね回っていた間、ジェシカの家も訪問し、彼女の両親にも会っている。
 両親からも『知らない』という回答しか得られなかったことのショックが大き過ぎて、あまり気に留めていなかったが、今思い返してみると、ジェシカの母親は様子がおかしかったような気がする。

 ハンスの応対をする父親の後ろに立っていたのだが、あのときハンスのことを食い入るように見てはいなかっただろうか。
 もしかすると、ジェシカのお腹の子の父親だと、ピンときていたのかもしれない。
 いつか確かめてみたい気もする──
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