せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「実は祖父には、ロザリアとの婚約を破棄したい旨をすでに手紙で伝えてあるんだ」
「そうだったの」
「謝罪されたよ。よかれと思ってとはいえ、まだ子どもだった僕に人生を左右する大きな決断をさせてしまったことを」

 祖父が退職するまで待った甲斐があったというものだ。
 それとも、在職中でも同じ返事を聞けていたのだろうか。

「でも、あなたは本当にそれでいいの?」
「どういう意味?」
「私はお金もなければ、コネもない。ロザリアさんと結婚しておけば、と悔やむ日が来たりしない?」
「今まで何を聞いてたんだい? びっくりだよ。僕が長い間どれだけ君だけを想ってきたか、全然伝わってないじゃないか!」
「伝わった、それは本当に伝わったわ。でも……」

 ハンスは呆れてしまい、天井を見上げてため息を吐いた。
 それからもう一度ジェシカに向き直る。

「セシルのためでもいいよ。どうか僕と結婚してほしい」
「セシルのため?」
「そう。ロザリアとのことを説明したところで、浮気男から打算的な男に変わっただけだ。君に愛してもらえるとは思ってない。それでも、君とセシルの傍にいさせてほしい」
「そんなことは……私は、卒業パーティーのあとも変わらず、あなたのことがずっとずっと好きだったわ」
「ジェシカ!」
「でも、そうね。今の私は魔法学校時代とは違うわ。セシルを一等愛してる。それでもいい?」
「もちろんだよ!」

 これっぽっちだって構わない。
 もうセシルのことを羨ましいとも思わない。
 ハンスを見つめるジェシカの瞳は、ハンスのことも愛しているのだと、言外に伝えてくれている。
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