せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「婚約を解消でき次第、すぐにでも結婚しよう。あの婚約は、もともと知事から祖父に持ちかけられた話だからと、祖父がすでに知事へ解消の打診をしてるんだ」
「それで?」
「知事のほうも、前々から僕に対して不信感を抱いてたそうだよ。とてもではないけれど、ロザリアのことを大事にしているようには見えなくて、僕に娘を任せていいのか、疑問に思ってたって。だから、ロザリアの考え次第では、破談にも応じてくれそうな雰囲気だったらしい。ただ……」

 そのロザリアがハードルになっている。

 ロザリアは地元ヨルデンのカレッジを卒業し、現在は、花嫁修行を目的に家事手伝いをしている。
 誰よりも都会に憧れているにも拘らず、ずっとヨルデンで暮らしていて、不満を募らせながら。
 しかし、彼女自身ではどうすることもできない。
 嫁入り前に家から出ていくことを、父親が許可してくれないのだからだ。

 だからこそロザリアは、結婚と同時に首都フィラストンに移住できる日を待ち望んでいた。
 それなのに、その前にハンスにノーステリアの研究所に異動する話が持ち上がり、それはそれは憤慨していた。
 『ノーステリアは私に相応しくない』と。
 そして、『絶対に異動しないでフィラストンに残って』と要求してきた。

 ヨルデンよりはずっと栄えているはずなのだが、ノーステリアに対するジェシカの文句は尽きなかった。
 大方、首都で勤務する国家研究員と結婚し、華やかな首都での生活を友人らに自慢したいといったところだろう。
 
 ハンスにしてみれば、首都でもノーステリアでも同じ上級国家研究員として働くのだから、待遇は変わらない。
 むしろノーステリアのほうが、自分の研究に適した環境という分だけ勝る。

 にも拘らず、それを理解せず、ハンスがまるで都落ちでもするかのような言いっぷりに閉口した。
 この時点ではまだジェシカと再会していなかったものの、異動して落ち着いたら、いよいよ婚約を解消をしようと固く決心した。
 祖父の退職と時期が重なるのも、ちょうどよかった。
 ジェシカとの再会を諦めかけていたけれど、それでもこのままロザリアと結婚することはできないと改めて思ったのだった。
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