せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「ただいま」
「おかえりなさーい」

 いつものようにセシルが玄関まで出迎えてくれたが、今日はハンスもキッチンから顔を出した。

「お疲れ様。今夕食を作ってるから、休憩してて」
「あら、ハンス? あっ、今日の仕事は学校のほうだったわね」
「うん。僕から言い出して一緒に暮らし始めたのに、君にばかり毎日夕食を作ってもらっててすまない。せめて今日くらいは、と思って早く帰ってきたよ」

 ジェシカとセシルがこの家で暮らすようになって、ちょうど1週間になる。
 この間ハンスは、勤務先である研究所に休暇の申請をし、仕事を前倒しで片付けるのに忙しい生活を送っていた。
 朝食こそ3人で一緒に取ってはいたが、それが済むと早々に研究所に向かい、夜遅くまで働く──
 そんな毎日だった。

 しかし、今日は魔法学校の勤務だったため、時間のやりくりをして早く帰ってきてくれたようだ。
 そして、いよいよ明日、婚約解消のためにヨルデンに発つ。

「君の好きなトマト煮込みにしたよ」
「いい匂いね」

 ジェシカは鼻を少し上に向けて胸いっぱいに吸う。

「僕も野菜切るの、手伝ったんだよ」
「とても上手だったよ」
「へへっ。じゃあ、僕はごはんまで書斎に行ってるね」

 うれしそうに書斎へ向かう姿を見て、自然に笑みが溢れる。
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