せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
重たい木箱を抱えるジェシカの横に、マシューが並んだ。
そうしてジェシカの細腕を横目で見た。
「そっちの班の分も運んでやれればいいんだけどなあ」
それを言ったところで一体どうなるというのか。
そんなことができるわけないのは、お互い重々承知だし、何の慰めにもなりはしない。
「その気持ちだけ頂いておくわ」
ジェシカは出来る限り素っ気なく返す。
マシューがジェシカに対してそういった下心がありそうなことに、以前から薄々気づいているからだ。
早めに、やんわりと拒絶の意を示しておきたい。
実際、この工場で働く従業員同士でカップルとなるケースは多い。
子持ちとはいえ、まだまだ若いジェシカは十分対象になるのだろう。
それにジェシカ自身は自覚がないが、ジェシカは容姿に恵まれている。
美人ではないがとても可愛いらしいその外見は、その境遇も相まって男性の庇護欲を掻き立てる。
『支えてやりたい』と言い寄ってくる男が時折現れるのも当然といえる。
しかし、当の本人はそんなことは望んでいない。
それどころか、ひとりでセシルを育てる、ととうに決めてしまっている。
だから、そういったアプローチは、はっきりいって煩わしいだけでなのである。