せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 ところが、すぐに問題にぶち当たった。

「班長、商品開発には鍋が必要なんですが、どうすればいいですか?」
「鍋? 魔法薬でも作るつもりなのか?」
「いいえ、短時間でおいしい煮込み料理ができる鍋を開発したいと考えています」

 ジェシカは簡潔に説明する。
 その間、班長は真剣に耳を傾けてくれた。

「それは面白そうだな。鍋はどんな鍋でもいいのかな?」
「分かりません。何種類も用意して、最適な鍋を調べられるといいんですが」
「ふむ……」

 班長は考えこむ。

「商品開発のイメージはある程度、頭の中にできているみたいだね。だったら、工場長にプレゼンして、予算をもらおう」

(そういうこともできるのね!)

「では、工場長に説明するための資料を作成します!」
「動きがとてもいいね。張り切って取り組んでほしい」
「はい!」

 どんな事柄について書けば、工場長を説得できるかは分かっている。
 以前、魔法の糸を製品化してもらうためのプレゼンをする前に、ハンスから手ほどきをしてもらった経験が確実に活きている。
 ジェシカは意欲的に資料作成に取りかかった。

(この仕事、楽しいかも……)

 昨日の憂鬱は何だったのか。
 聞きやすいように説明する事柄の順番を入れ替えたり、視覚的に分かりやすいように図解を工夫したり。

(もしかしてこのまま仕事を続けたほうがいいのかも⁇)

 確かに教師になるのは夢だった。
 しかし、この職場には恩がある同僚がたくさんいる。
 そして今、大きな仕事も任されて、大きな期待を背負っている。
 それなのに、『退職します』などと伝えたら、皆をどれほど落胆させてしまうことだろう。
 それが怖い。
 仕事が苦でないどころか逆に楽しいと思うなら、無理に辞めなくても──

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