せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
休憩時間を知らせるベルが鳴った。
が、ジェシカは資料作成の手を止めない。
マーサとリアナがおもむろにやってきて、ジェシカの手元を覗きこむ。
「へえ。鍋の仕組みを説明する図解、分かりやすい」
「開発の進め方のフローチャートも!」
「本当?」
「本当、本当!」
仕事を辞めてカレッジに入り直すことを考え始めた矢先だけれど、自分はこの仕事に向いているのかもしれないと思った。
しかし、リアナが言った。
「さすがジェシカ先生だね」
「えっ⁉︎」
「だって、魔法理論を解説してくれたり、試験の目的や手順を説明してくれたり。これってまさに先生でしょう! ジェシカ先生、今回もがんばって」
ジェシカの心は揺さぶられてグラグラになる。
「ジェシカ?」
ジェシカは唾を飲みこんでから訊いた。
「……私が今から本物の学校の先生を目指すのってどう思う?」
マーサとリアナは目をしばたたかせた。
ジェシカの全神経を緊張が駆け巡る。
「いいと思う!」
「すごいことだわ‼︎」
「本当にそう思う?」
ふっと力が抜ける。
「でも、そのために仕事は辞めるんだよ?」
「勇気がいる挑戦だと思うけど、がんばってほしいな」
「うん、うん。応援する」
ジェシカの中ではどこか、ふたりに対する裏切り行為のように感じていた。
ジェシカが第七班から抜けることに対して、どう思われるか怖かった。
第七班の待遇が少し改善されたところで退職しようというのだ。
がっかりさせてしまうだろうか、不安にさせてしまうだろうか、と想像した。
しかし、ふたりにとっては全くそうではなかったのだ。
ふたりが見せてくれたのは、ジェシカが望んでいた以上の反応。