せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

26. 訪問者

「……ロザリアさん?」

 叩かれた頬に手を当て、ぼんやりとした声で訊ねる。

 濃い化粧は、目や口が大きく、はっきりした顔立ちの彼女にはとても似合っている。
 当時の面影は残ってはいるが、すっかり大人になり、ますます美人になっていた。

「どうしてあなたなのよ⁉︎」

 金切り声は、彼女の心の痛みをそのままに伝えてきた。

「ママ……?」

(いけない‼︎)

 ジェシカは慌ててセシルの前に立ち、ロザリアから隠そうとした。
 しかし無駄だった。

「そう、その子が……」

 ロザリアはセシルの存在を知っているのだ。
 漏れ出たような声は低く、ゆっくりだった。
 ジェシカのスカートからはみ出たセシルを、値踏みするかのような目で見ると、視線をジェシカに戻し、絞り出したようにもう一度呟く。

「……どうして、あなたなの?」

 どう答えたらよいものか。
 ジェシカは何も言えなかった。

 それがさらにロザリアの癇に障ってしまったようだ。
 再び頬を叩かれた。

「おとなしそうな振りをして、卑怯だわ! 恥を知りなさいよ。子どもまで産んで、他人の婚約者を奪うなんて‼︎」

 頬がじんじん痛むのを感じながら、咄嗟にセシルに覆い被さって耳を覆った。
 けれど、聞かれてしまったに違いない。
 セシルが今の内容をどれだけ理解できたかは不明だが、聡い子だ。
 全く理解できないということはないだろう。
 
 セシルはロザリアの気迫に完全に怯えている。
 ジェシカはセシルをさらに自身に引き寄せ、強く抱き締めた。
 防護壁になれるとは思っていないが、そうすることしかできない。
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