せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
「……あなたのご両親、」
その言葉に、ジェシカの心臓は桶いっぱいの氷水をぶっかけられたようにギュッと縮む。
「あなたの帰りを今も待ってるわよ」
そんな気がしていた。
夜逃げして以降、便りのひとつすら出していない。
生きているかどうかすらも分からない娘。
そんな親不孝者のことを、どれほど案じてくれているか。
母親になった今なら想像ができてしまい、胸が張り裂けそうだ。
ジェシカの様子に、ロザリアは意地の悪い笑み浮かべた。
背中がぞくっとする。
「だけど、お父様が無職になったらどうかしら? 同じ家に住み続けられるだけの余裕はあって?」
ロザリアは知っているのだ。
ジェシカの父親の勤め先が、自身の父親がもつ工場であることを。
「父に頼めば簡単なことよ。今は『愛してくれない相手と結婚しても幸せなれるとは思えない』だとか、『お前を愛してくれる男性結婚したほうがいい』だとかって、もっともらしく言ってくるわ。でも、私が頼めば、父は最終的には何でも私の望みを叶えてくれるの。ずっとそうだったわ」
ロザリアの父親の言うことは正しいように思えたが、そう伝えられる立場にはない。
長く片想いをする間に、ロザリアの中には執着心が生まれていたのだ。
それは、今や苛烈なまでに成長していた。