せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「ハンスだって、勝手に未婚で産んだ子どもを理由に、結婚を迫るような女なんかと結婚したら不幸になるわ!」

 言いながら、いつの間にか止まっていたはずの涙がまた流れ出す。
 ロザリアの頭の中では、ロザリアが想像するジェシカの物語が出来上がっているのだろう。
 ロザリアが正しく、ジェシカが完全に悪人な。

 事実は全く違う。
 ジェシカからハンスに結婚を迫ってもいなければ、ハンスもセシルを理由にジェシカと結婚しようと決めたわけでもない。
 もっと言えば、あのときはセシルとロザリアが婚約していることも知らなかった。

 が、それを訂正することは、少なくとも今のロザリアに対しては不可能だと思われる。
 なら、訂正できなくてもいい。
 悪人のままでも構わない。
 それでもどうにかして、父親の解雇だけは撤回してもらわなければならない。

 親不孝なら、もう十分過ぎるほど犯している。
 自分のせいで職まで失うなど、絶対にあってはならない。

「父のことだけはどうかお許しください‼︎」

 ジェシカはありったけの心をこめて、もう一度謝罪しようと、膝を地面につける。
 ハンスの鼻をすする音が背後から聞こえてきた。

(ごめんね、息子の前でこんな姿をさらさないといけないような母親で……)
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