せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

27. ノーステリア中央駅

 ジェシカが荷物をまとめている間、ロザリアは家の中をゆっくり見て回った。
 その態度は尊大で、何をしても許されるといったふうである。
 あたかも、この家の女主人にすでに納まったかのように振る舞い。

「趣味は、まあ、悪くはないわね。でも、あなたが一時でも住んだ家だと思うと嫌だわ。ハンスに言って、ハンスにも引っ越してもらわないと。使った家具や道具も一新して……」

 『嫌』だと言いながら、その声はとても楽しそうに家中に響く。
 ジェシカとセシルのいた痕跡を跡形もなく消し去ったあとの部屋を想像するのが、楽しくて仕方がないのだろう。

 ハンスとの結婚も、圧力鍋の開発も、カレッジへの再挑戦も、教員になる夢も──
 全て一緒に消されてしまうのだ。
 ハンスと共有したものはひとつ残らず。

 なら、ハンスへのこの想いもなかったことにされてしまうのだろうか。
 今これほどジェシカの胸を苦しめているというのに。

 ジェシカたちの荷物は相変わらず少なかったため、すぐに家を出る用意はできてしまった。
 ハンスがジェシカとセシルために買い揃えてくれた物は置いていくつもりである。
 たとえロザリアによって廃棄されてしまうとしても、持っていく気にはなれない。

 大きな独り言を言いながらジェシカの周りをウロついていたロザリアは、無反応なジェシカに飽きてしまったのか、どこか別の部屋に移動していた。
 何か言って出ていくべきか。
 それとも、黙って去るべきだろうか──

「やっだあ!」

 ロザリアが叫んだ。
 どうやら今は書斎にいるようだ。

「この書物の量は何? 勘弁してほしいわ。職場にでも持っていってもらえないかしら……」

 ジェシカの傍らにいるセシルの目に涙が滲む。
 ジェシカはセシルの手をしっかりと握った。
 このまま黙って出ていくことに決めた。

 両親はセシルを見て驚くだろうか。
 しかし、ジェシカが家出後に出産している可能性も考えているだろう。
 きっと彼らはこの子のことを愛してくれる。
 かつて自分に与えてくれたのと同じ愛情を、セシルにも注いでくれるはずだ。

 玄関のドアを、音が立たないようにそうっと閉めた──

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