せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ホームは夕日に照らされオレンジ色に染まっている。
「ヨルデンには明日の朝着くわ。夕食と明日の朝食は、列車の中で食べようね」
セシルは小さく頷くのみだった。
売店に入り、パンとホット・スナックを選ぶ。
(それと飲み物も……)
陳列棚に、見慣れた清浄水の入ったボトルを見つけた。
込み上げてくるものがあった。
工場の従業員たちの中には、時折、何の事前通告もなしに、出勤しなくなる者がでる。
明日ジェシカもそのひとりになるのだ。
ヨルデンからノーステリアにやってきたときに一度、両親や友人たちに対してその不義理をした。
また同じことを、今度は雇ってくれた上に大きなチャンスまでくれた工場長や、支えてくれた第七班の皆にしなければならないのかと思うと、何とも言えない気持ちになる。
ヨルデンについたら必ず手紙を書いて謝罪しようと思うが、それでも許されることではない。
「……行きの特急が5番線ホームに入ります。途中停車駅はヨルデンです。ご乗車のお客様はご準備ください」
「あの列車に乗るのよ。さあ、行きましょう」
乗車券を見せ、乗り込む。
セシルの手を引き、慎重にプラットフォームと列車のギャップをまたがせた。
あまりに生気がないので、その細いギャップに吸い込まれてしまいそうな気がした。