せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 自分たちの席は簡単に見つけられた。
 荷物を荷物棚に上げていると、窓の向こう側を駅員が通り過ぎていった。
 各車両のドアを閉めて回っているのだ。
 続いて、出発前の周囲の安全確認が始まった。
 セシルを出産し、魔法学校に入学できるまで育ててきたノーステリアの地を離れようとしている。

 あれほど懐かしかったはずのヨルデンに、今は少しも帰りたいとは思えない。
 誰にも別れを告げることができず、心残りが多過ぎる。
 それでもこの列車が動き出してしまえば、ジェシカにはどうすることもできない。
 それならば、一刻も早く出発してほしい。

 駅員が手旗信号を送り、機関士に安全確認の終了を知らせる。
 いよいよだ。

 ……のはずが、依然として列車はプラットフォームに留まったままだ。
 一向に前に進もうとしない。

(どうしたのかしら⁇)

 まばらに座っているほかの乗客たちがザワザワし始めた。
 しばらくして、車掌が回ってきた。

「汽笛が鳴らず、出発の合図を出せません。ただ今原因を調査中ですので、しばらくお待ちください」

 思わず大きなため息が漏れた。

 この状況下でぐずぐず待たされると、神経を使う。
 こういうときは、えてして、時間が過ぎるのが妙に遅く感じられるものだ。
 すでにメンタルはぼろぼろだというのに、さらに削られるのか──

 しかし、どうにか気持ちを取り直そうとする。

(ヨルデンまでは長いんだもの、こんな気持ちではいけないわ。鷹揚に構えないと……)

「セシル、お水でも……」
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