せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 ただただ驚くセシルとは対照的に、ジェシカの両親はセシルのことを愛おしく見つめる。

「ジェシカの小さい頃を思い出すな」
「ふふっ、本当に。ねえ、あなた?」

 母親は意味ありげな視線を父親に投げかける。
 
「そうだね、これからはこの子の成長をそばで見ていきたいと思う。これまでの分も」
「お父さん、それって⁇」
「ノーステリアに来るまでの列車の中で相談してたんだ。僕らはノーステリアに越してこようと思う」
「ええっ? そんなことできるの?」
「むしろ、そうしないといけないだろう。娘がハンスくんと結婚するとなると、そのまま働かせてもらうことなんてできないよ」
「…………」

 その通りだ。
 ジェシカは改めて自分の罪の重さを自覚する。

(お父さんの人生まで壊してしまったんだわ)

 唇を噛み締めた。
 しかし、父親は笑みを湛えて言う。

「だが、なにも犯罪を犯したわけじゃない。けじめを付けた後は、皆で前を向いて生きていこうじゃないか。ノーステリアにもブラシ工場くらいあるだろう。ブラシ工場でなくたっていい。お父さんは必ず職を見つけるよ」
「ハンスさんから聞いたわ。ジェシカはもう一度教師を目指すかもって。カレッジの学費は残してあるから使ってちょうだい。家のことも私に手伝わせて」
「お父さんも、お母さんも、本当にありがとう」

 ジェシカの胸はすでに喜びでいっぱいになっていたが、ハンスはさらなる提案でジェシカをさらに喜ばせる。

「ご両親には、僕らの家で一緒に住んでもらおうと思うんだけど、どうかな?」
「素敵だわ! ……でも、ハンスはそれでいいの?」
「僕は大歓迎だよ。何せ、ずっと両親と暮らすことに憧れてたからね」
「ああ、ハンス! うれしい。ありがとう‼︎」
「さあ、早速家に帰ろう」
「ええ……あっ、ダメよ!」

 ジェシカのしあわせな笑顔は一瞬にしてかき消え、怯えた表情になる。
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