せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「息子が! 魔法学校に入学することになったので、その支度金が必要なんです‼︎」

 工場長の眉がピクッと動くのと、ジェシカは深々と頭を下げたのはほぼ同時だった。

「どうかお願いします」

 張りつめた空気の中で続く沈黙──
 今この瞬間にセシルの未来が真っ暗な谷底に落ちていきそうで、ジェシカは恐怖でいっぱいになった。

「魔法学校、ねえ……」

 この工場の魔道具を作っている者たちは皆、魔法学校で魔法を学んできたはずである。
 第二班の従業員だってそうだ。
 それなのに、工場長の声からは侮蔑の意が感じられた。

 ジェシカは頭を下げ続けていた。

「君は第七班ということは、どうせ大した魔法は使えないのだろう? 魔法学校を卒業しても、その程度だ。息子も魔法学校に行かせたところで、金の無駄ではないのか?」

 反論は絶対にしてはいけない。
 セシルの未来だけでなく、己れの職まで失ってしまうわけにはいかないからだ。
 スカートをギュッと握って堪える。

「第一、前借りしたとして、その後はどうすると言うのかね?」
「魔法学校は最初の入学準備にお金がかかるだけで、授業料は無料なんです。今、毎月、児童保育所に納めている保育料の分が浮くので、その額を毎月の給与から引いてください」
「ふん」

 まだ不満そうではあったが、それ以上は何も言われなかった。
 一応は了承されたと受け取っていいだろう。

「よろしくお願いします」

 ジェシカは工場長室をあとにした。

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