せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
(ハンスはどうなのかしら……結婚はしてる?)
していても、おかしくはない。
カレッジを卒業して、立派な仕事に就いているのだから。
「なら、家族も招待するよ。ご両親かい?」
「それには及ばないわ!」
「そんなこと言わず、どうかこの通りお願いだ」
ハンスは引き下がろうとしない。
ジェシカと再会できたこのチャンスを、何があっても逃がさないつもりだ。
その覚悟がひしひしと伝わってくる。
そのディナーには、ハンスの家族、妻も同席させて、紹介してくれるつもりなのかもしれない。
(そんなの、ご免だわ……)
「私、もう行かないと! ハンスも忙しいんでしょう? 今日は会えてよかったわ。講演会の成功を祈ってる。それじゃあ!」
「待って‼︎」
ハンスのことを忘れた日はない。
本当はずっとずっと会いたかった。
けれど、今の自分はセシルのためだけに生きている。
それに、ハンスにはしあわせになってもらいたい。
お互い関わらない。
これが最善である。
だから、待たない。
何があろうと絶対に。
ジェシカは踵を返すと、脱兎のごとく図書館から抜け出した。
あっという間の出来事だった。
しかし、ハンスもそれに負けず劣らず素早かった。
秒の速さで走り去るジェシカの背中に掌を向けた。
そうして、魔法をかけた。
逃げることだけに集中していたジェシカがそれに気づくことはなかった──