せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ほどなくして、セシルが花畑のような小部屋から出てきた。
「楽しかったよ! アヒルの兄弟が出てきてね……」
セシルは興奮して、早口にストーリーを聞かせてくれる。
『うん、うん。それで?』と相槌を打ちながら、ジェシカはセシルと手を繋ぎ、図書館の外へと誘導する。
セシルが歩けるギリギリの速さを見極めながら。
アヒルの冒険談よりも、よほどこちらのほうがスリルがある。
(やったわ、逃げられたわ!)
外に空気を吸ったときには、開放された気分になった。
「さあ、パンを買って帰りましょうね。お昼ごはんを食べたら、さっそく魔法の実践よ!」
──それはジェシカの知らない、ジェシカとセシルが出入口のドアを抜ける少し前の出来事。
研修室から男たちがわらわらと出てきた。
雰囲気はとても和やかだ。
「スティルロッドさん、続いて講演会会場の大セミナー室にご案内しますね」
「お願いします」
「確認していただいて、もし不備などありましたら遠慮なく仰ってください」
「はい、ありがとうございます」
男たちはそろって前を向き、大セミナー室へと進む。
その中でハンスただひとりは、同じ方角に向かいながらも、別のある一点を見やる。
迷うことなく真っ直ぐに。
(図書館に戻ってきたのか? なぜ?)
その双眸を大きく開く。
(……子ども?)
ジェシカが男児の手を引いて急ぐ後ろ姿を、しっかりと捉えてていた──