せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 大きなプレゼントに目を取られているセシルの前に、ジェシカは握った手を差し出す。

「プレゼントはもうひとつあるの」

 ジェシカはゆっくりと指を開いていく。

「何なに?」

 ジェシカがセシルに手渡したのは、冒険家の恰好をしたアヒルを象った木製のチャームだった。
 必需品以外にも何かプレゼントしてやりたくて、用意したものだ。
 ジェシカの手作りで、セシルに見つからないように、工場の休憩時間に魔法を使って少しずつ削った。

「これ! 図書館で読んでもらった本に出てきたアヒルみたい!」

 もちろんそれをイメージして作った。
 絵本の中で冒険に挑んだアヒル。
 これから魔法学校に入学するセシルに、いかにもぴったりだと思った。

 はじめての学校生活。
 戸惑う場面も少なからず出てくるはずだ。
 それでも、いろいろなことに挑戦して乗り越えてほしいという願いを込めた。

「裏返してみて」
「僕の名前がある!」
「鞄に付けたらいいと思って」
「ママ、ありがとう。大事にするね」

 喜ぶセシルの顔に安堵する。

(どうにか魔法学校の入学準備を整えてあげられて、本当によかった)

 ふと、ジェシカ自身が魔法学校に入学するに当たって、両親から学用品を贈られた日のことを思い出す。
 真新しい学用品を順番に手に取り、大はしゃぎするジェシカのことを、両親はうれしそうに見ていた。
 ちょうど今セシルのことを見つめるジェシカと同じ眼差しで。

 そもそも魔法学校の受験を希望したのはジェシカ自身だった。
 両親はおろか親族の誰も魔法を使えなかったのに、ひょんなことにジェシカは魔法が使えてしまった。

 両親はジェシカが魔法学校と普通の学校のどちらに入学してもいいと思っていた。
 それでも、ジェシカの魔法学校入学が決まったときには大層喜び、誇りに思ってくれた。
 そして、学用品は立派で上等なものばかりで揃えてくれたのだった。
 魔法学校のことを知らない彼らは勝手が分からず、きっと苦労したことと思う。
 人に訊き、たくさん調べて選んでくれたに違いなかった。
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