せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 リアナの家は、過去それなりに裕福だったそうだ。
 あくまで父親の事業が立ち行かなくなり、負債を背負うまでの話ではあるが。
 長子であるリアナは、その後カレッジへの進学を諦めてこの工場に就職し、両親とともに借金を返済しながら6人の弟妹を育てている──

 互いに魔道具工場で働くことになった経緯を打ち明け合ったときに、そんなふうに教えてくれた。

「でも、いいの? 大事な服なんじゃ……」
「母さんもジェシカになら、絶対『いい』って言うわよ。今日家に帰ったら早速訊いてみるわ」
「ありがとう!」

 リアナの母親と面識はない。
 それなのに、『絶対』とまで言い切った。
 常日頃からジェシカのことをよき同僚として話して聞かせてくれていることがうかがえる。
 リアナの母親だけでなく、リアナに対しても感謝の気持ちが湧いてくる。

(セシルの入学式に行けるかもしれない!)

 諦めていただけに、喜びはひとしおだ。

「ついでに、靴とショルダーバッグも訊いておくわ」
「それはとても助かるわ」
「よかったじゃないの。なら、私は前日に髪を整えてあげるわ」

 マーサの亡くなった父親は理髪師だった。
 幼い頃に父親の仕事を見て育ったマーサもまた、上手に髪を切れるのだ。
 本人は『見よう見まねの素人芸』だというが、センスがよく、流行も取り入れてくれる。
 その腕は、お金を取ってもよいと思うほどだ。

「マーサもありがとう!」
「その代わり、セシルくんのことを寂しがらせないでね」
「ジェシカも入学式を楽しんでくるのよ」

 ジェシカは何度も何度も大きく頷いたのだった。

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