せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
マーサの整えてくれた髪を乱さないように着替える。
式典に相応しいように、ととても上品に仕上げてくれた。
その場で何度もお礼を伝えたが、『やだなあ、水臭い』と言われてしまった。
彼女とは距離が近い分、もう十分に感謝の気持ちは伝わっていると思っていいだろう。
次に何か彼女に困り事が出てきたときに、手助けして返せたらいい。
これまでも互いにそうやってきた。
リアナの母親は、ワンピース、靴、ハンドバッグ、それからブローチまで貸してくれた。
ブローチはガラス製でたいした価値はなく、買い取ってもらえなかったから手元に残しただけなのだそう。
リアナは『気に入らなければ無理につけなくていい』と言い添えてくれたが、気に入らないだなんてとんでもない。
小さくて控えめながら、光があたると何色にも輝いて、とても美しいと思う。
こういった装飾品の類いを身につけたことがないジェシカの心は躍る。
──こういうのはお互い様だから。
リアナの母親はそう言っていた、とリアナから聞いた。
けれど、ジェシカには返せるものがない。
きっと借りっぱなしになってしまう。
でも、きっとそのことを向こうも承知している。
『お互い様』というのは、ジェシカに気を遣わせないためのただの方便に過ぎないのだ。
せめて、セシルの制服にしたように、新品に近い状態にして返却したい。
それと、心を込めてお礼の手紙も書こう。
「ママがいつものママと違ーう」
「そうでしょう?」
「うん、すごく綺麗だよ!」
「ふふっ、ありがとう。それじゃあ、そろそろ出発しようね」