せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
しかし、生活はギリギリなのである。
日中働いている間、セシルを保育所に預けるしかないが、そうするにもお金はかかる。
毎月家賃を支払うのも綱渡りな状況だ。
とてもではないが、それがほんのたまの機会であっても贅沢できるような余裕はない。
それに、これからセシルの入学に向けて物入りになる。
ローブに、教科書に、筆記具に……
これまで以上に節約しなければいけない。
「ねえ、ママ?」
ジェシカははっとした。
今自分はお金の心配をして暗い顔になっていなかっただろうか。
大切な母子の時間なのだ。
努めて笑顔を作る。
「うん、なあに?」
「さっきのぼくだけが開けられたシール、ぼくでも作れる?」
「うーん、どうかな……」
ジェシカは少し考える。
蝋の代わりに封をするだけでいいのなら、今すぐにでも可能だが、開封する個人を限定するとなると、もっと複雑な術式になるはずだ。
少なくとも、ジェシカは今までに使ったことはない。
学校で習ったこともなかった。
それでも、と思った。
(何とかなるんじゃないかしら??)
「今度のお休みに図書館に行って、どんな魔法か調べてみようか?」
「うん!」
中等教育までしか修了していないジェシカが習得している魔法は多くはない。
とはいえ、基礎理論は叩き込まれ、しっかり身についていた。
それほど高度な魔法でなければ、独学で新たに習得することも十分に可能だ。