せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

8. 入学式

 ジェシカは俯いたまま、硬直している。
 頭の中は大混乱だ。

(いるはずがないじゃない!)

 では、どういうことだろうか。
 めちゃくちゃな状態の頭で、必死に説明を考える。

 ジェシカは家を出てからここに来るまでの間、セシルの質問に答えるために、懐かしい思い出を掘り起こす作業をしていた。
 それら過去の記憶は、正門をくぐってからは、この学校の空気によって息を吹き返し、鮮やかに蘇った。
 結果、過去と現在との境界が曖昧になり、目の錯覚を起こしてしまった──

(そうよ! それ以外考えられないわ)

 そう思う一方で、疑問が浮かぶ。

 新入生のひとりに当時の彼の姿を重ねるわけでも、保護者の誰かを数ヶ月前に偶然会った大人の姿の彼と見間違えるわけでもなく、なぜ教員だったのか。
 
(それに、目が合ったと思ったのは??  あの人と見間違えた教員が、たまたまこっちの方角を見ていただけ?)

 そんな偶然が重なることが果たしてありえるのだろうか。

 考えれば考えるほど、恐怖が増幅する。

 まだこっちを見ている気がするのは、恐怖ゆえだろうか。
 周囲の声量を落とした会話は、もうまともに耳に入ってこない。
 ただの音でしかなくなった。
 自分が石像にでも変化してしまったような気分だ。

 しかし、その魔法がふっと解けた──
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