せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
そこまで考え至ると、ジェシカの気持ちは少し落ち着いた。
もし捕まってしまって話しかけられたときには、甥っ子の入学式に出席していることにしよう。
いや、性別も変えて姪っ子ということにしたほうがいいかもしれない。
『どの子が姪か』と訊かれても、『今見失ってしまってどこにいるか分からない』とでも言えばいい。
セシルと合流して帰るときだけ、見つからないように気をつければ──
ジェシカは途端に哀しさを覚えた。
セシルのことを隠さなければならない。
それもセシル父親から。
そのことが胸を締め付ける。
(ということは、私はあの人にあの子のことを見てほしいのかしら?)
セシルが誰の子か気づかないなら、見てほしいかもしれない。
あの子の晴れ姿を。
完全なる自己満足だ。
分かっている。
ジェシカはこっそり教員席を窺った。
(ああ、ハンスだわ)
なぜここにいるのかは分からない。
それでも確かにハンスだ。
あなたの子だとも私の子だとも一生知らないでいて。
だけど、優しい、とてもいい子なの。
魔法の才能もあってね。
きっとあなたから受け継いだんだわ。
あの子が今日ノーステリア州立魔法学校に入学した、という事実だけ知っていてくれたらうれしい。
これから、あの頃のあなたや私のように楽しい学校生活を送るのよ──
セシルの父親が、セシルのほうを見て拍手をしている。
それだけで十分だと思った──