せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 そこまで考え至ると、ジェシカの気持ちは少し落ち着いた。

 もし捕まってしまって話しかけられたときには、甥っ子の入学式に出席していることにしよう。
 いや、性別も変えて姪っ子ということにしたほうがいいかもしれない。
 『どの子が姪か』と訊かれても、『今見失ってしまってどこにいるか分からない』とでも言えばいい。
 セシルと合流して帰るときだけ、見つからないように気をつければ──

 ジェシカは途端に哀しさを覚えた。
 セシルのことを隠さなければならない。
 それもセシル父親から。
 そのことが胸を締め付ける。

(ということは、私はあの人にあの子のことを見てほしいのかしら?)

 セシルが誰の子か気づかないなら、見てほしいかもしれない。
 あの子の晴れ姿を。

 完全なる自己満足だ。
 分かっている。

 ジェシカはこっそり教員席を窺った。

(ああ、ハンスだわ)

 なぜここにいるのかは分からない。
 それでも確かにハンスだ。

 あなたの子だとも私の子だとも一生知らないでいて。
 だけど、優しい、とてもいい子なの。
 魔法の才能もあってね。
 きっとあなたから受け継いだんだわ。
 あの子が今日ノーステリア州立魔法学校に入学した、という事実だけ知っていてくれたらうれしい。
 これから、あの頃のあなたや私のように楽しい学校生活を送るのよ──

 セシルの父親が、セシルのほうを見て拍手をしている。
 それだけで十分だと思った──

< 44 / 161 >

この作品をシェア

pagetop