せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 式は短い時間で終了となった。
 それでも6歳児たちには苦痛だったらしい。
 終盤は、かなりの数の児童がもぞもぞしていた。
 セシルが最後までじっとしていられたことに胸を撫で下ろした一方で、そういう子どもたちのことも可愛いと思う。

 これから新入生が退場する。
 再び各教室に戻るのだ。

 が、ジェシカたち保護者はそのまま講堂に残り、連絡事項を聞くことになっている。
 それが終わり次第解散し、保護者は教室まで子どもを迎えにいくよう指示を受けている。

 新入生がいなくなった後、一部を除いて教員も退場していった。
 その中にハンスも含まれていた。
 ジェシカは気を緩め、ほっと息を吐く。

 ところがそれを見計らっていたように、ハンスがこっちを向いた。
 目が合うと、ハンスは口角を上げた。

 ジェシカの肩に思わず力が入る。
 ハンスはまたすぐに出口のほうに向きを変え、出て行ったが、ジェシカの心拍数はおさまらない。
 
(ここからは気を引き締めて行動しないといけないわ)

 ハンスは、ジェシカがここにいることを知っているのだから。

 ハンスが講堂から退出してしまった今、次にハンスと出くわす可能性がある場所がどこなのか、想像もつかない。
 ハンスに見られることなく、セシルと合流し帰宅するというミッションを何としてでも成功させなければならない──

(それにしても……)

 保護者席にいるジェシカが、教員席のハンスに気づくのはそれほど難しいことではなかった。
 けれど、ハンスのほうは、よくぞジェシカに気づいたものである。

(すごい才能をもっているのね。ハンスも私に気づいたとき、びっくりしたのかしら?)

 けれど、入学式開始前に目が合ったとき、ジェシカと違って向こうは驚いていなかったように見えた。
 それはつまり、ハンスのほうが先にジェシカに気づいていたということだろうか。

(一体いつ私に気づいたの?)

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