せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
セシルの手を引き、前を行く集団の後に付いていく。
もうすぐ校舎を出られる。
そうすれば、正門を抜けるまであっという間だ。
あともうひと息──
ところが、ジェシカの思い通りにはいかなかった。
(だから、どうしてなの⁉︎)
校舎の正面玄関脇に、ハンスがゆったりと立っていた。
しかし、薄々と予感はあった気がする。
「やあ、ジェシカ。待ってたよ」
(あわわわわ! 『待ってた』って何⁉︎ セシルのこと、何て言えば……)
セシルの前でセシルのことを『甥っ子よ』などとは言いたくない。
第一、そんな下手ば嘘を吐いたころで、すぐさまセシルから突っ込みが入り、あっさり露呈するだろう。
セシルが、“あわわわわ”しているジェシカを見上げる。
「ママの知り合いなの?」
(『ママ』って呼んでしまったわ‼︎)
「君のママと僕は同じ魔法学校に通ってたんだ」
ジェシカではなく、ハンスが答える。
「ハンスだ。よろしく」
「セシルです。えっと、よろしくお願いします」
ふたりは自己紹介し合い、握手を交わす。
「と、ところで、あなたはどうしてここに?」
「僕は……あー、でも、積もる話もあることだし、場所を変えて話そうよ」
「積もる……何……?」
「ジェシカ、僕らには話すべきことがあるよね?」
「何のことかしら。そんなものはないと思うわ」
「この間は断られたけど、今夜食事でもどう?」
慌てるジェシカに、ハンスは目を細め、にっこりと笑いかける。
「もちろん、セシルくんも一緒に。セシルくんの話も聞きたいな」
「っ‼︎」
(バレてる⁉︎⁉︎)
ハンスは絵に描いたような優等生だった。
成績優秀で、品行方正。
おまけに誰にでも等しく優しくて。
その頃と全く同じ笑い方。
怖いと思ったのははじめてだ。