せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

9. 作戦

(狼狽えてるなあ)

 それも盛大に。

 ハンスは、自分によるサプライズの結果に満足する。
 悪趣味だろうか。

(でも、突如いなくなって僕のことを哀しませた君より、突如現れて驚かせる僕のほうが、よほどマシなはずだよ)

「ママ?」

 様子のおかしいジェシカに気遣いの眼差しを向けるのは、ハンスに目元がそっくりな男の子だ。

「だ、大丈夫よ」

 母親と繋いでいる手に力を込める子どもと、青ざめながらも子どもを心配させまいと無理やりに笑顔を作る母親。
 ふたりがどんなふうに生きてきたのかが垣間見えるようだ。

(君はそうまでして、僕という存在を排除したいのかい?)

 理由は多分だが分かっている。
 それでも、許すことは到底できそうにない。

「ジェシカ、久しぶりにゆっくり話そうよ」
「ええっと、でも、そういうのはよくないんじゃない? 入学式で教員席に座ってたっていうことは、あなたはこの学校の関係者なんじゃないの?」
「昔からの知り合いと食事をするくらいで、何の問題もないよ」

 ジェシカは目を泳がせてから、ハンスの耳に口を寄せる。
 ふわっと伝わるジェシカの体温。
 ハンスは、ジェシカがすぐ傍にいることを実感する。

「人のいるところでは話せないわ」

 それもそうか、と思う。
 ということは、ジェシカは観念したと解釈していいのだろう。
 ハンスの頬が緩む。
< 48 / 161 >

この作品をシェア

pagetop