せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
「なら、僕の家に招待するよ。単身用の公舎に空きがなくて、今ファミリー用の広い戸建てに住んでるんだ」
嘘だった。
いずれ家族と同居する予定だから、と少々強引に用意させた。
「えっ、どういうこと? あなた、今ノーステリアに住んでるの? でも、この前は『出張で来てる』って……」
「そのことも家で話すよ」
「ハンス、結婚は?」
今回はジェシカがハンスの指を確認する番だ。
「してないよ」
「でも、婚約者は?」
(やっぱりそれを気にしてたのか)
「そのためにも、セシルくんのことをはっきり聞いておきたい」
「でも、子どもの前で話すようなことじゃないわ」
セシルには絶対に聞かせまいと、あまりに近寄ってくるものだから、このまま抱きかかえて家に連れ帰りたい衝動に駆られる。
(僕がこんなことを考えてるだなんて、君は想像もしないんだろうね……いや、違うか)
そういう衝動性をもっていることを、むしろジェシカだけが知っているはずだ。
「セシルくんの話をするときには、セシルくんを別の部屋に案内するよ。書斎はどうだろう? 僕が子どもの頃に読んでた魔法書もたくさんあるから、退屈しないんじゃないかな。どう思う?」
「それは……」
「公立の図書館にはないような珍しい本もあるんだ。よろこんでくれるといいなあ」
ジェシカは困った顔をして、セシルのほうに視線をやる。
(どう? 断れないだろう?)
ジェシカの現況だけではない。
セシルのことも調査済みだ。
子ども向けの魔法書は子ども時代を過ごした家からかき集めたり、新たに買い求めたりした。
再会を半ば諦めていた想い人。
ようやく会えたと思ったら、この前はまんまととんずらしてくれた。
(もう二度と逃がさない)
これは、ハンスの中では決定事項だった──