せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

(急いで準備をしなくては)

 職員室に戻ったハンスは手早く帰り支度をした。

「今日のところはお先に失礼します」
「はい。今日は入学式に列席、ありがとうございました。来週からは、探求活動の講師としてよろしくお願いしますね」

 校長がにこやかにそう答えると、ほかの教員たちもハンスに頭を下げる。

 ここノーステリア州立魔法学校に、週一の非常勤講師として就任できたのは、ハンスにとって僥倖だった。

 ハンスはもともと、首都フィラストンにある国立魔法カレッジを卒業後、そのままカレッジ附属の研究所に就職した。
 しかし、その研究所は首都という場所柄、便利な反面、如何せん敷地は狭かった。
 大規模な実験をするために、地方の研究所に異動する必要が出てきた。

 もう会えないかもしれないと思いつつも、どうにも諦めきれずにまだジェシカを探し続けていたから、本当ならヨルデン州に戻りたかった。
 が、ヨルデン州とその近隣の州には相応しい国立研究所はなく、どうしようかと悩んでいたときに声をかけてくれたのがノーステリアにある研究所だった。

 とりあえず設備見学だけさせてもらうことにした。
 図書館での講演は、そのついでに頼まれた仕事だった。
 面倒だと思ったものの、学生時代からの習性が抜けきらず、ついいい顔をして引き受けてしまった。

(まさかそこでジェシカと再会できるなんて……)
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