せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 おまけに、ノーステリア州立魔法学校の校長が講演を聴きにきていて、その後、『非常勤講師として、ぜひに』と請われた。

 それはさすがに面倒過ぎると思い、当初は断るつもりでいた折に、探偵に依頼していたジェシカの身上調査書が届いた。
 そして、ジェシカに息子がいることを知ることとなる。
 図書館から大急ぎで男の子を連れ出すのを目撃したときから、その可能性は頭の片隅にあったが、確定したのはこのときだ。
 調査書の中で『父親は不明』とされていたが、そんなことはハンスには分かりきっていた。

 その息子がノーステリア州立魔法学校に入学予定であることが書かれている箇所を読んだときには、調査書を持つ手が震えた。
 何から何まで運がいい。
 天が味方してくれているとしか考えられない。

 それからは忙しかった。
 とにかく時間がなかった。
 異動までの短期間で、フィラストン研究所でやりかけの研究を全てまとめ上げながら、その合間に家族で暮らすための家を探した。
 こだわって決めた家は、今後家族が増えてもいいように、3人で暮らすには十分過ぎるほどの広さがある。
 そうして転居してからは家具を揃え、快適に暮らせるよう整えた。

(ジェシカ、学生時代に僕が駆け回るところなんて想像できたかい?)

──ハンスって、何でも涼しい顔でこなしちゃうのね。苦手なことはないの? 何だか悔しいわ。

 そう言っていた彼女だ。
 想像できたはずがない。

 もっとも自分でもこんな風になりふり構わず、必死になる日が来ようとは夢にも思わなかった。
 けれど、決して嫌ではなかった。
 ジェシカとの未来のためだと思うと、むしろ楽しくて仕方がなかった。

 そして、ジェシカと話す機会をまずは得られたのだ。
 疲労感すらも心地よく感じられるのであった──

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