せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
しかし、そうかといって、ジェシカのことを二の次にするつもりはさらさらない。
(ジェシカの好物は何だった? そうだ、学校の食堂では煮込み料理をよく食べていたな)
野菜やスパイスを次々に購入する。
(大人になった今、アルコールは飲むだろうか?)
正直なところ、イメージは湧かない。
それに、余裕のない生活だ。
もしかしたら、飲んだ経験がないかもしれない。
が、食前酒くらいならいいだろう。
最初に緊張を解かせて、その後の会話をスムーズにしたい。
食後には、お茶と焼き菓子を。
魔法学校時代、放課後に友人たちとクッキーやマドレーヌを食べていたのを何度も見かけたことがある。
『おいしい』とうれしそうにしていたのをよく覚えている。
だいたい今のジェシカは痩せすぎだと思う。
バターと砂糖がたっぷりと入った焼き菓子を食べさせてやりたい。
(ずっとひとりで苦労してきたんだ。甘やかすくらいがちょうどいい。今までの分も僕が甘やかそう)
どう考えても食後のデザートではないような量の詰め合わせを買う。
ハンスは浮かれていた。
食材を揃えるための買い物が、これほど楽しかったことがあっただろうか。
頭の中は実に戦略的で打算的ながら、ジェシカへの想いは純粋そのものなのだ。
まるで10代の少年のように、好きな人の笑顔を思い浮かべ、心を躍らせた。