せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

10. 夕食会

「いらっしゃい。迷わなかったかい?」
「ええ。地図をもらってたから、大丈夫だったわ。あの……」

 ジェシカの来訪に心を弾ませるハンスとは対照的に、ジェシカの表情は固い。

(今からのことに不安を感じて?)

「こんにちは」

 ジェシカの後ろにいるセシルのほうが、よほど物怖じせず堂々としている。

「……みすぼらしい格好で来てしまってごめんなさい」
「格好?」

 ジェシカとセシルの服装に目をやる。
 ジェシカは頬を赤くした。

「でも、私がセシルの入学式で着ていた服は借り物で、どうしても汚したくなくて。セシルの制服も、これから長く着るものだし……」

(何だ、そんなこと)

 と思ったが、ジェシカの恥ずかしそうな様子から、ジェシカにとっては、“そんなこと”ではないと分かる。

 研究所に勤めていると、どうも服装になど頓着しない者に囲まれがちでいけない。
 ハンス自身も着るものに興味が薄く、一応TPOを考慮した服装を心がけているが、他人が着ているものまでは注目したことがない。

 けれど、ジェシカはハンスとは違う。
 学校に上がる年齢の子どもがいるとはいえ、まだ若い女性なのだ。

「……こんな立派なお宅だなんて」

 ハンスの住まいは官舎であり、それほど立派でもないはずだが、ジェシカの住む下宿と比べると豪邸のように見えるのだろう。
 それで気後れしてしまったのか。
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