せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
「乾杯しようか」
食事会をスタートさせると、セシルは一生懸命に食べ始めた。
「おかわりは自由にどうぞ」
「はい、ありがとうございます!」
「セシル、ゆっくりね。よく噛んで食べて」
「ふあい」
ジェシカもセシルのことを気にかけながら、サラダを食べ、ついにシチューを口に含んだ。
目を丸くする。
「これ、大好きだった学食のシチューにそっくり!」
ハンスは、やった! と思った。
「だろう? カレッジ時代、魔法学校の学食メニューが恋しくて、祖父から食堂の料理長に作り方を聞いてもらったんだ」
「身内特権ね」
「はじめて祖父が校長でよかったと思ったよ。家庭でも作りやすいように少しアレンジしてくれたらしいんだけど、味はほとんど変わってないよね?」
「そうね。懐かしい味だわ」
目を閉じて味わい、しみじみと言う。
食べ物で自分といるメリットを感じさせられるのは、どうやらセシルだけではなかったようだ。
ハンスはそっとほくそ笑む。
「ほかにどんなメニューが好きだった?」
「ミートボールのトマト煮込みや、羊肉とじゃがいものシチューかなあ」
祖父経由で料理長からは、いろいろなレシピをもらった。
その中に、確か両方ともあったはずだ。
(次はそれを作ろう)
「ハンスは何が好きだった?」
「僕は、がっつり肉って感じの料理がうれしかったよ。チキンソテーとかね」
微笑みながら、若鶏に夢中のセシルに視線やる。
『今のセシルくんと同じように』と言いかけたが、せっかくいい雰囲気なのだ。
それは控えることにする。
急いてしまって事を仕損じることになってはいけない。