せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「そうなのね。食堂で一緒に食べることはなかったから知らなかった」
「僕ら、もっぱら図書館で会ってたからね」
「と、ところで、校長先生はお元気?」
「元気だよ。先月定年退職したんだけど、今も教育関係の会合にしょっちゅう駆り出されてるらしい。ようやく夫婦でゆっくりできると思ってた祖母は、アテが外れてがっかりしてる」
「相変わらずお忙しいのね。そういえば、ハンスが今日魔法学校の入学式にいたのはどうして? 教師に転職したの?」

 ハンスは先ほどから自身が質問攻めにされていることに気がついていたが、ひとつひとつ丁寧に答える。

(意図的に、自分とセシルの話題にいかないようにしてるんだな)

 分かっていても、あえて指摘はしない。
 こちらは探偵に依頼してジェシカの現在の状況はおおむね把握しているのだ。
 公平に、自分のことを教えるのもいいと思った。

 セシルが無言で食べ続けていたため、たっぷり質問に答える時間ができた。
 そうして、ジェシカが今のハンスのことをほぼほぼ把握できたとき──

「もうお腹いっぱいです。ごちそうさまでした!」

 セシルはとてもいい笑顔で、そう宣言した。
 そうして、期待に満ちた顔で要望してきた。

「魔法書がたくさんあるっていう部屋に連れていってください」

(それであれほど一心不乱に食べていたのか)

 ハンスは噴き出しそうになる。
 ああ自分の子だ、と思った。

 一方で、素直に要望を伝えられるところは自分とは違う。
 しっかり愛情を注がれて育てられた結果、気持ちを表せる子になったのだろう。
 母子家庭で生活に余裕がなくとも、子どもを真っ直ぐに育てたジェシカに感心する。

(そういえば、ジェシカは魔法学校の教師になりたがっていたな。それも初等部の)

 将来の夢を語ってくれた当時のジェシカは、もちろん今のように生活に疲れてなどいなくて、希望に満ち満ちていた。

 しかし、ジェシカの夢は叶わなかった。
 その張本人はハンスである。
 そのことを思い、胸が痛んだ──

< 57 / 161 >

この作品をシェア

pagetop