せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

11. 誰の子

「魔法書は書斎という部屋にいっぱいあるよ。こっちだ」

 ハンスが手招きすると、セシルは椅子からするりと下りて付いていく。
 その足取りは楽しみで仕方がないといった様子で、実に軽やかだ。

「お行儀よくしてね」

 ジェシカは少し心配そうな視線をセシルに向ける。

「ハンス、この子に触っていいものとダメなもを事前に教えておいてくれない?」
「書斎は好きにしてくれて構わないよ」
「本当に?」

 ジェシカは懐疑的だ。
 でも、ちょうどいい。

「よかったらジェシカも覗きにくる?」
「行きたいわ」
「おいでよ」

 書斎のドアを開けて、ふたりに披露する。

 セシルは『わあ!』と感嘆の声を上げ、ジェシカは息を飲む。

 正面には大きな窓。
 向こう側には新緑が広がる。
 この部屋を書斎に選んだのは、この景色がヨルデン州立魔法学校の図書館から見えるそれと似通っていたからだ。

 書斎は徹底的に思い出深い図書館を真似て作った。
 両サイドの壁は全面書棚になっている。
 さすがに書棚まで全く同じというわけにはいかなかったが、忙しい中時間を捻出して、図書館用の書棚を製造している家具屋まで出かけ、よく似ているものを選んだ。
 部屋の中央に置いたオープンテーブルと椅子もそう。
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