せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 ハンスは考える。
 正直に『探偵に調べさせた』と話せば、引かれるだろうか。

(まあ、自分なら間違いなく引くな。だったら……)

 まだマシそうな事実を白状することにした。

「図書館で君が僕から逃走したときに、とにかく君を見失いたくない一心で魔法をかけたんだ」
「魔法? それってどんな?」
「君の居場所を常に把握できる……」
「ええっ、何それ⁉︎」

 ジェシカは目を見開く。
 ハンスがジェシカを探し出せた時点で、その可能性を考えもしなかったようだ。

「でも、それならいろいろと説明がつくわ……」

 ジェシカが怒るのではないかと心配したが、今のところそういう気配はない。
 ひたすら驚愕している。

(どうせここまで話したんだし……)

 この魔法をジェシカに見せてみたいという気持ちがおこる。

 ハンスは呪文を唱えた。
 すると、ハンスとジェシカの手首を結ぶ一本の糸がうっすらと現れた。
 色はない。
 しかし、チラチラと光るため認識できる。

 ジェシカが腕を左右に振ると、糸は伸縮する。
 弛むことなく、常にピンと張った状態を維持している。
 信じられないような目で糸をまじまじと観察すると、今度はハンスのことを見据える。

「これはれっきとしたストーカー行為よ⁉︎」
「分かってる。この機会を逃すわけにはいかないと思って、あのときは必死だったんだ」
「だからって、あなた、そんな人じゃなかったでしょう? 誰よりも正しい人だったのに!」

 ジェシカの言う通りだ。
 魔法学校時代は、校則ですらただの1度も破ったことはない。
 カレッジ時代だって、研究職に就いてからだってそうだ。
 模範的な学生、模範的な市民であり続けた。

 今回の件は、褒められた行為でないのは認める。
 しかし、ジェシカだけだ。
 ジェシカだけが、ハンスを突き動かすのだ。
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