せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

12. 繋ぐ糸

 ジェシカに笑いかけられ、ハンスも気分が高揚する。

(まるであの頃みたいだ!)

 あの頃とは、もちろん放課後を図書館で過ごしていた魔法学校時代のこと。

「糸の魔法は、どのくらい持続期間がほしい?」
「あまり長くなくていいわ。そもそも長く保たせるのは難しいでしょう?」

(並の魔法の使い手なら、まあ、そうなんだろうな)

 そう思ったが、ジェシカには黙っておく。

「半日もあれば……それと、どちらかが結び目を解くか、紐を切っても魔法の糸は失くなるようにするといいんじゃないかしら」
「うん、いいと思うよ」

 しかし、ここでジェシカは我に返った。
 そうして、恥ずかしそうに言う。

「こんなこと考えたってどうにもならないのに、つい熱くなっちゃったわ」
「どうにもならないことはないだろう? さっきジェシカだって言ってたじゃないか。セシルくんの『居場所を常に知れると安心』だって」
「だって、私はそんな高度な魔法は扱えない……」

 小声でポソっとそう呟くと、ジェシカは俯いてしまった。
 いじけたようなそのひと言に、胸が詰まる。

(だけど、君は僕との子どものために諦めたんじゃないか。そうだろう?)

「僕が教えるよ」
「でも……私には難しいんじゃない?」
「少し時間はかかるかもしれないけど、」

──ゴーン、ゴーン……

 外から鐘の音が聞こえてきたせいで、会話が中断された。
 市庁舎の鐘塔の鐘である。
 毎日定刻になると、市民に時刻を知らせるために鳴らされる。

「そろそろ帰らせてもらうわ。明日も私は仕事だし、セシルも学校があるから」
「そうだね」

 この鐘が鳴ると、昼営業の店は完全に閉店し、酒場はいよいよ大々的に営業を開始する。
 本当は家まで送り届けたいが、申し出たところで、ジェシカは固辞することが予想された。
 それならば、酔っ払いが通りをうろつき始める前に帰したい。
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