せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
書斎のテーブルには本の山がふたつできていた。
読み終わった山と、これから挑もうという山だろう。
「セシル」
セシルは熱心に読み耽っていたが、意外にも本から顔を上げる。
「ママ! ここ見て‼︎」
開いているページの一カ所を指差す。
「そうしてあげたいんだけど、今日はもう遅いから帰らないといけないの」
「やだっ、この本だけは最後まで読ませて!」
しかし、ぱっとみたところ、まだ3分の1しか読んでいない。
時間はまだまだかかりそうだ。
「セシル」
「お願い!」
ジェシカとセシルのやり取り聞いて、ハンスはいい流れだと思った。
ポンと手を打ち、さも今思いついたかのように言う。
本当は、セシルを書斎に招き入れたときからここまでが計画通りだったにも拘らず。
「なら、こうしよう。どれでも好きな本を貸してあげるよ」
「えっ、本当ですか⁉︎」
(州立図書館では貸してもらえないけど、ここは貸してあげるよ。最高だろう?)
しかし、セシルにとってはそうかもしれないが、ジェシカにはありがた迷惑としか取れないだろう。
「今度の週末にでも返しに来てくれればいいよ」
「ママ、いい?」
「そうねえ……」
セシルの懇願にジェシカは困り顔だが、ジェシカのほうももうひと押しだ。
「セシルくんが本を読んでる間に、君にはあの魔法を教えてあげるよ」
「ねえ、ママ、お願い!」
「うーん……分かったわ。ハンス、本当にいいのかしら?」
「もちろん」
(今度は、前日の夜からミートボールのトマト煮込みを仕込んでおこう)
「セシルはどの本を借りるの? 今手に持ってるそれ?」
「これも借りたいけど……」
目線が山になっている本に向かう。
ジェシカがすかさず嗜める。
「多すぎよ」
「でも、あっちも読みたい!」
そうだろうな、と思う。
むしろそうなることを狙って揃えた蔵書なのだから。