せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
魔法書を抱えたセシルと、焼き菓子をもつジェシカを玄関先まで見送る。
「今日はありがとうございました!」
「食事、とてもおいしかった。それに、お土産まで頂いちゃって。セシルのこともありがとう」
「うん。また週末にね」
セシルは『はい!』と気持ちのいい返事をくれたが、ジェシカは弱々しく微笑んで、小さく頷くだけ。
けれど、今はこれで満足しておこう。
「次も懐かしい食堂メニューを用意しておくから、きっと来て」
もったいなくて、手を繋いで歩くふたりシルエットが夜に混ざって見えなくなるまでずっと眺めていた。
ようやくジェシカと自分とを糸で繋ぐことができた。
が、それはあまりに細くて頼りない。
切れてしまう前に、強固な関係にしなければ、と思う。
(ふたりが別の場所に帰らなくていいように、ここがふたりの家になるように、早速動くとするか)
ハンスは家の中に戻ると、書斎に向かい、手紙を書き始めたのだった──